私が作業療法士として大切にしていること

はじめまして。作業療法士の勢田紘子です。
昨年11月にこちらへ転職するまでは
外来リハビリと訪問看護・訪問リハビリの事業、デイケア施設の立ち上げに携わってきました。

多様な業務を担当する中で、ずっと意識してきたことがあります。
それは、“人”と関わるということです。
私は医療従事者として就業しており、その現場で相対するのは”人”です。
“人”とあえて強調するのは、自分の職について、1人の人の人生に携わるものだと強く感じているからです。
人には皆、どう生きて来たか、今それがどうなってるのか、これから先どう生きたいのか、ストーリーがあります。
今回は、そこに着目するようになったエピソードも含めて『人への理解』というテーマで書くことにします。

私がまだ若い(笑)実習生時代、「疾患をみるのではなく、その人をみるんだよ」と
バイザーの先生に教えていただきました。
働き始めてそれを痛感したのが、ひとりの方を担当したときのことです。

私の前職場は、学生時代最後に訪れた実習地でした。
そこでは、検査や評価と同じかそれ以上に
生活歴やその方の大事にしていることなどの聞き取りが重要とされていました。

実習生には担当ケースの方をつけることになっています。
わたしが担当した方は、福島県育ち、自然豊かな土地で育った大らかな70代の男性でした。
青年期に来阪し、工場で働きつつお金を貯めて、銭湯を営んでおられました。
お見合いで結婚されましたが、子どもはおらず、面倒見がよく
近所の方のふすまの修理や障子の張り替え、日曜大工、子ども会の引率など、張り切ってやられておりました。
こどもも大好きで、「おっちゃん、おっちゃん」と言ってもらえることにご自身が笑顔になっていました。
奥様がリウマチを患い、看病もされました。
彼は、自分自身が動くことで、誰かが少しでも楽しくなるか助かるかすることが(それが経験のないことで、自分の休みがなくなろうとも)、生きがいになるような方でした。

そんな中、銭湯の経営がむずかしくなってきたころに、脳梗塞で左麻痺となります。
左半身が動きにくくなったことに対してだけでなく
それによって妻の介護もできない、誰のお手伝いもできないと
彼は自分のアイデンティティを見失ってしまいます。
私は実習生として聞き取りと評価を行いながら、毎年続けていらっしゃる年賀状のハンコづくりの話にたどり着きました。
年賀状は、今まで関わって来た近所の方、田舎の方、
こども会で関わったこどもたちの中でも大人になっても連絡を取る方、といった総勢200人に渡す大事なものです。
左手の押さえがなくては右手でハンコを掘れません。
押さえの練習、足りない部分の特別な台の作成、柔らかい木の選定、全部一緒に行いました。

実習が終わる頃、プレゼントがあると言ってくれた、手作りの木箱があります。
その箱には、
ぼくで役にたてたかな?
とご自身の手で彫られていました。
私がもらったものの方がうんと大きいのに。
見た瞬間に泣いてしまった私を、とても穏やかな顔で見守ってくれていたことを今でも思い出します。
ああ、これが、この人なんだと知りました。

その数年後、作業療法の作業の意味を知りたくなり、私は作業科学と出会います。
作業科学とは、ひとがすることのすべてを
ADL(日常生活動作)とかという区切りではなく、『作業』と捉えます。
作業科学の捉える『作業』では、その作業ごとに
作業の形態(だれといつどこでどのようになどの5W1H)、機能(その作業がその人にどういう影響をもたらすか)、意味(人生における役割など)を考えます。
人それぞれ、作業をする瞬間ごとの取り組み方や、作業が持つ意味合いは違いますよね。
朝のルーチンで例えてみます。
私は、朝起きてまずは顔を洗って、アツアツが嫌な子どものパンを焼いてから、子どもと旦那を起こして、
アツアツが好きな旦那のパンを焼いて、その間に食べやすく子どものパンを切って……、と行動します。
朝起きてご飯を食べるだけでも、人の作業って、5W1Hでとらえると違ってきます。
私は、機嫌よく朝から保育所に行って欲しい、仕事に励んで欲しいという目的のもと、この行動(作業)を選択しています。
家族には幸せでいてほしい、笑っていてほしい、と思うから、こうして『作業』に励んでいます。

幸せやなーとか、リラックスできるなーとか、自分らしいなーと思う瞬間を思い起こしてみてください。
それって、少し前に書いてある、形態が重要だったりしませんか?
誰と、どこで、いつ、何を、なぜ、どんなふうに、と色々な要素があると思います。
それらがきっと、ご自身にとって大切なポイントです。
違う作業であっても、その条件に近づけば、同じくらい充実した時間になることもあるかもしれません。
そこまで聞き出すこと、それを実現に近づけることも、私たちの役目かなと思っています。

自分が自分でいられる作業ができているかどうか、も健康のためには重要な部分です。
ただその行為ができる能力をつけることを目標とするのではなく
その方の作業の形態、機能、意味を理解することで
作業療法士のアプローチ方法だって、さらに広がるのではないかと考えています。

今後も初心を忘れることなく、人と向き合い
視野を広げた作業療法を提供できるよう、ご利用者と関わらせていただく所存です。

 

作業療法士 勢田紘子

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