かなえるレター制作中の2021年12月某日。
編集担当である私は、メイン記事に出ていただいたI君の自宅にスタッフと訪問しました。
寒空の下インターホンを鳴らすと、出迎えてくださったのは冬の空気とは正反対に温かい笑顔のお母様。
屈託のない朗らかな姿勢から、お人柄が窺えます。
医療ベッドで迎えてくれたI君は、最初こそ怪訝そうに私を見られましたが、お母様やスタッフの説明を受けてからは愛想よく、自動車の雑誌を手に好きな車を教えてくれました。
握手をした際の、予想よりも強い手の力にはっとします。
20歳で発症した重度の気管軟化症から回復した彼の、生命力を感じました。

穏やかで優し気な雰囲気のお父様も現れ、全員が揃ってI君のお風呂介助を行うのを衝立越しに拝見しました。
ベッドに戻ってからは、スタッフが医療的処置をする間、お父様は看護助手ばりに医療機器を使いこなしてサポートをされていました。
その様子を見る限り意外だったのですが、お母様によると、以前のお父様はまったくそんな風ではなかったそうです。

「Iはもともと知的障害があったんですが、その頃の彼(お父様)は、ほとんど家にも帰ってこず、子どもをかわいがることもありませんでした」
と、話してくれるお母様。お父様は仕事第一の方だったようです。
「それが、(気管軟化症を)発症する少し前からやっとIをかわいがるようになって、一緒に旅行に行きたいね、と話したりしていたんです」
そんな矢先に病気が発覚し、すべてが変わってしまったそう。
「彼(お父様)がいちばんショックを受けたんじゃないかと思います」

歯科受診の際に呼吸不全を起こしたその日から、人生が一変したI君。
それはI君だけでなく家族全員でしたが、中でもお父様の意識の変わりようは目を瞠るものがあったそうです。
なにごとにおいてもI君を最優先するようになり、I君が良くなるために全身全霊を注がれました。

 

「いつ呼吸が止まるか分からない。2度も心停止して、14分も(心停止が)続いたときはもうだめだと思った」

一秒一秒が緊張を強いられる状況の中、そこに存在するあまりにも強い恐怖を克服するためには、自分たちのレベルを上げるしかないと決意されたそうです。
一から医療機器についての知識を身に付けられたご両親の努力は、想像するに余りあります。
在宅で生活を送るにあたり、弊社から訪問サービスを受けていただきました。
身体機能を回復させるためのリハビリの最中に何度も呼吸が危うくなり、さまざまな医療行為が繰り返されました。
医療従事者でないご両親は、恐怖を耐えに耐えてひたすら様子を見守ることしかできなかったと言います。
「怖いですよ、本当に。死んでしまう、しか思えないときもあった」
「今でも(リハビリ中に様子が変わったときは)、見るだけで怖い。パートナーがいるから、なんとか気を静めて見ていられる」

一時は「一生歩けなくなる」と言われたものの、ご両親の努力に報いるように、今は力強く人の手を握り、自分の両足で立って歩くI君。
発症当時は仕事どころではなかったご両親ですが、2年経った今は在宅での仕事に復帰されています。
毎日を一緒に過ごす中で、ご両親はI君の存在に心を励まされているそうです。
「小さい頃からあだ名が『スマイル君』だったんです。人と仲良くなるのが得意で、支援学校の先生からは『生き上手』とも言われていました」
嬉しかった、と笑って話されるご両親。きっとその笑顔がご子息をスマイル君にしたのだろうな、と思いました。
「病気になってからも笑顔でいてくれるから、家で一緒にいるのが楽しいんです。ずっと笑ってます」
夫婦喧嘩をしても、I君の仲裁があればすぐに仲直りをしてしまうと仰るご両親。
人が大好きで愛され力が人一倍強い彼は、人と人を結び付ける特殊な能力を持っているようです。
ご両親は、それぞれの考え方の違いや得意分野を活かし、タッグを組んで介助に向き合っていらっしゃいます。

意見の相違もあるからこそ、様々な角度から『I君のため』を考えることができる相棒なのだと見受けました。
決して円満なばかりではないと語るご両親でしたが、『子はかすがい』とはまさにこのことか、と感じ入るばかりです。

病気になってから、以前よりも自己主張をするようになったというI君。
人が好きで、人と遊ぶのが好きで、仲良くするのが好きだと全身で表現してくれます。
その『好き』の気持ちが、『元気になりたい』という強いパワーを引き起こしたのでしょうし
それこそ彼がここまで回復できた秘訣かもしれないと思います。

2022年の目標は、『完全に人工呼吸器から離れて、日常生活を取り戻す』こと。
当面の目標は、お風呂やトイレに自分で行くことができるようになることだそうです。
人口呼吸器を完全に外すことができれば、生活の幅も広がります。
「旅行も行きたいね」「車好きだから、車で行けると喜ぶし」「デイでお泊りもチャレンジしたい」と笑顔で言い交すご両親を見て、その前向きさに胸を打たれました。
ここに至るまでの道のりがどんなに険しく厳しかったことか、本当に図り知れません。
きっとこれからも、恐怖が完全に消え去ることはないと思います。
けれど今、I君もご両親も笑顔を忘れず、希望を抱き続けていらっしゃいます。
ここにきて、ご自宅の空気が明るく温かさに包まれている理由がよく分かりました。

病気は、人によってはマイナスにしか捉えることのできない要素であるかもしれません。
けれど、その過程で育めるものもあり、見つけることのできる温かさもあるのだと思います。
「○○がしたい」「○○が好きだ」という気持ちが大きな原動力になり、奇跡を引き起こすこともあると、私は教えていただきました。

末尾にはなりますが、訪問を受け入れていただいたことに心から感謝を述べたいです。
たった1時間ほどしかお会いできませんでしたが、とても大きなことを学ばせていただき
笑顔溢れる、楽しく有意義な時間を過ごさせていただきました。本当に有難うございました。

I君はデイサービスにも通うようになり、どんどん自分の世界を広げています。
きっとこれからも、彼の世界に触れた人々に明るいスマイルと希望を届けてくれるでしょう。
私は陰ながら、これからのI君の青春が輝かしいものであることを願い、I君とご家族の幸せを心の底からお祈りしています。

 

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お父様はYouTubeでI君との日常や

リハビリの経過などを発信していらっしゃいます。

ぜひリンクよりご視聴ください。

Youtubeチャンネル『フェニックスいっちゃん』

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かなえるレター編集担当
島野千嘉

※訪問に際して、マスク着用・手指消毒などを実施し、感染症対策は万全に行いました。